■RED AND BLACK■レ・ミゼラブル2015日記 -3ページ目

未練ふっきった千秋楽エピローグ

日曜のレミゼ2011千秋楽、観る前は「ある意味“お祭り”だし、ものすごく構えて臨む感じでもないかも」なんて考えてた。だけど観たら重くて大きくてパワー半端なくて、いまだに余韻から抜け出せない。

あの三時間超に立ち会ったことは夢のよう。信じられないあまりに、記憶が白く飛んでしまいそうになるのだけど、それではもったいないので忘れたくないことを記しとかなきゃ。

【キャストのこと】

●攻める攻める鹿賀ジャベール
「対決」の「♪つべこべ言うな」、警棒持った手をまるでハエをはらいのけるかのように振り回して、バルジャンの言葉を鬱陶しがっている。バルジャンとセリフ重ねて歌う間中、一切声のボリューム落とさず、攻める攻める!終盤後のあいさつで「新しいジャベールを演じてみた」というようなこと言ってたけど、確かに細部に新しい発見があった。

●いるだけでうれしい今井バルジャン
今井パパ…。勝手にそう呼びたくなる。これまでにクールフェラック、ブリジョン、ジャベールと演じてきた今井さん。アンサンブル時代に憧れた初演メンバーと、いまバルジャンとして共演できるなんて、こんな幸せなこともうないんじゃないか、って言ってたね。そんなこと言わないで、これからもレミゼで新しい幸せに出会ってほしいな。今期の今井バルジャン、「♪犬じゃないぞ」のためらいがちな言い方が好きだった。また進化した姿に再会したいと心から願う。

●ひとりの女子の生き方刻み込んだ、岩崎ファンテの歌
岩崎ファンテの「夢やぶれて」に、他にないドラマを感じるのはなぜだろうと思う。ひとりの女子の生きざまが、歌にリアルに刻みこまれているからなんだろうな。スペシャルキャスト版パンフにある座談会では「実体験を歌に託すことがはじめてわかった」ときのことを述べている。ファンテの痛みが自分の痛みとなって一体化しているからこそ、彼女の人生を映しだすドラマのような「夢やぶれて」になったんだろう。ミュージカルの仕事はレミゼだけと決めてる、だから帝劇は今日で卒業、とカーテンコールで言ってた。

●24年分の想いが張り詰めた島田エポニーヌ
「♪知ってる 夢みるだけ」のワンフレーズだけで、涙がじんわり湧いてきた。ことさら強調して歌ってるわけでもないのに、エポニーヌの底知れぬ孤独が浮かび上がってくる。初演以来24年、エポニーヌに寄り添ってきたからこそかな。あいさつでは、長い間エポニーヌを深く愛し続けている気持ちが切々と伝わってきた。だから余計に、記憶に残るオンマイオウンになった。

●この人もいるだけでうれしい!斉藤テナルディエ
何にも作りこまないように見える芝居なのに、滑稽でも怖くもあるテナルディエを深く描いてくれる。そんなすごい役者さんをレミゼで観るときのツボ、本役以外にもありまして…。それは「♪釈明してみろゆうべのことを」のシーンで、警官の後ろに群がる見物人を演じているとき。こんな有名な役者さんが、無名のアンサンブルと一緒に真剣に芝居してる様子を観られるなんて、レミゼならでは。

●怪物って書いてごめんね、岡アンジョルラス
千秋楽での勢いに押されて「岡アンジョは怪物か?!」なんて、幕間に思わず書きこんでしまった 。見た目麗しいのに、怪獣扱いしてごめんなさい。でも、帝劇最後の岡アンジョは、「♪築け今 バリケード!」と呼び掛ける声からしていつもの岡さん以上だった。観てて「ここまで声出しちゃっていいの? 明日の声、残ってるの?」とハラハラしてしまうほどのエネルギー。おかげで「ABC Cafe - Red&Black」のコーラスが熱いこと熱いこと。全員で「♪夜の終わり~」と分厚く声を合わせたときには、感動を通り越して「なんだこりゃ…すごいもん観ちゃった」としばし、ぽかんとしてしまった。ガブちゃん撃たれたとき、ガブローシュ!って叫んでたね。そういえばこの日、ガブちゃんのかばん学生たちに届いてたけど(だよね?)、岡アンジョの手にも渡ったんだろうか。そしてもうひとつ思いだせないこと。この日も、片足だけバリケードに引っ掛けて死んでいただろうか。そのポーズ、岡アンジョの美学の表れのようでいつも注目していたんだけど、千秋楽に限ってよく観てなかった…。残念。

【シーンのこと】

●迷いと未練をふっきった、エピローグのコーラス
舞台見ながら実は「この場に自分がいるなんて現実なんだろうか」とか「レミゼ終わったらどうしよう」とか、うじうじした気持ちを拭いきれないままだったんだけど、エピローグの晴れやかさがすべて消し去ってくれた。人生を戦いぬいた登場人物たちの輝きは、24年の重みある舞台を務めあげた役者さんたちの充実した表情と重なり、前向きなパワーにあふれていた。こんな晴れ晴れとしたエピローグ、はじめて。レミゼは終わりじゃない。始まりだ。そう思える千秋楽で良かった。

このキャストの、このセリフ

今期公演での発見とは限らないけど、このキャストによって意味を教えられた、という特別なセリフが二つある。

●今井バルジャンの「♪この魂 すでに神に渡して 代わりに得たのだ 生きていく力を」

初めてレミゼを観た2003年公演でだったと思う。「代わりに得たのだ」に合わせて力強くこぶしを握る今井バルジャンを観て、「あ、この想いがこのミュージカルの屋台骨なのか」と、初心者の自分にもすとんと意味が落ちてきた。それから何回今井バルジャンを観たか知れないけど、毎回同じように胸にずしりと重く響くセリフだ。

●森公美マダムテナルディエの「♪この我慢は神様ご存じだ!」

愛憎いろいろひっくるめて大声で叫んでいるのが好き。“夢見てたプリンス”とほど遠い亭主と生きていくしかないという現実。「もうやってらんない」というやけっぱち感と、「だからって黙ってないわよ」というふてぶてしさが同居しているこのセリフ、リアルに人間臭くて素晴らしい。モリクミさんのドスの利いた声で聞くからこそ、感じられる価値だ。このセリフに「そうだ!」と共感した勢いで手拍子を始める、という流れが自分の定番になっている。

今期レミゼの「絶品」ふたつ

このふたつを書かずに終わるわけにはいきません。

●鎌田フイイの「民衆の歌」ソロ
「♪悔いはしないな たとえ倒れても 流す血潮が潤す祖国を 屍超えて拓け 明日のフランス!」書いてるだけで泣けてくる。頭のなかで鎌田フイイの声で響いているから!格調高いこのフレーズ、鎌田フイイの優しく力強い旋律にかかると、観る側の気持ちにも炎が燃える。見た目草食系だけど目力あって、歌うまいだけじゃなくて動く姿勢が常にピンとして美しい。民衆の歌の行進シーンでうるっとたときは、いつも鎌田フイイがいたかも。

●岡アンジョの輝きすぎる笑顔
多くを語らなくともよいですね。ワンデイモアで降り注ぐライトよりもまぶしい、顔いっぱいに放つ希望の笑顔は、悔しいけど「絶品」という言葉以外に表しようがない。ほかにふたつとないこの光を見たくて、最後の千秋楽に行ったのかもしれない。

もう「未完成」とは言わせない

昨日ソワレの上原アンジョルラス千秋楽。声量ボリュームフルmax(これまでの観劇比)でいつにも増して堂々としていたのは、学生たちとの固い絆が生む自信からきていたんだろうな。上原アンジョの好きなところいっぱいあるけど、今期の彼の象徴として心に焼き付いたのは「♪鬨の声、空に届こう」で満ちる笑み。公演終盤になって日ごとに笑顔に自信が宿っていく様が感じ取れた。カーテンコールのあいさつで自分で言ってた言葉が、上原アンジョそのものだと思う。「特にABCの仲間…僕をアンジョルラスにしてくれました」。生死をかけた友情を礎に生き抜いた上原アンジョルラス。もう、「未完成」 とは言わせない。

謎のダンディーギタリスト現わる

今日の開演前と終演後、正面玄関前でタキシード姿のダンディーな白髪のおじさんが、アコースティックギターでレミゼナンバー弾き語りしてたよね。オンマイオウンとかスターズとか。雰囲気からして素人じゃないよなあ。間違いなくプロだろうなあ。幕間のロビーでも見かけたので、業界の関係者かもね。なんか、特別な千秋楽ならではのプチお祭りっぽくて、うれしかったな。

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カーテンコール、鹿賀ジャベールのあいさつより。オリジナル演出版のレミゼは今日で終わりだけど、東宝はバリケードの装置を取っておくそうです。また、バリケードに会える日がくるかも…? 噂ですからね、とのこと。

あなたの歳でどうして…

千秋楽幕間です。岡アンジョルラスは、怪物か?!

あふれゆく育三郎マリウスの行動

今夜のキャストはみんな千秋楽。育三郎マリウスもいつもに輪をかけて気持ちあふれていたけど、ちょっと気になったことが。ABCカフェでグランテール&学生たちの「♪レ~ッド」「♪ブラ~ック」と掛け合いしながら歌うところ、「♪希望の色~」でテーブルの上に広げられた赤旗を思わずつかみあげたね。おいこら待て、このシーン的に、赤旗に一人で触れるのはアンジョルラスに譲るべきところじゃないかね??あっけにとられちゃったけど、そんな大胆な動きがあっても観てて嫌な気持ちにはならないのが、育三郎マリウスの魅力かも。行く手を恐れない、感情たっぷりマリウス、愛されてたね。ABCカフェの仲間からもバルジャンからも。「♪もう行かねば頼むよ」「♪…そうします」のくだり、いつもより間合いが感じられて、ふたりの言葉にならない言葉が漂っていた。どのシーンでも、想いが行動にあふれ出る育三郎マリウス、好きだったな。

さよなら!?

水曜ソワレの上原アンジョルラスの話、これが最後。前日に続いてこの日も、グランテールに最後の言葉かけてたのが見えたんだけど、上原アンジョの唇、「さよなら」って動いてなかったか。そしてちょっと微笑んでなかったか。土屋グランテール、固まってしまっていたよ。ああ、本当かなあ…。

砦の上レポート 4

水曜ソワレの上原アンジョのセンチメンタリズムは、反則だ。「彼を返して」を歌う今井バルジャンの声が響き終わる間際に、赤旗の裾を静かに小さく握りしめるのが、見えてしまった。どうして、歌の終わりにきてそんなことになるの。どうして、ここで気持ちがほろりとあらわになってしまうの。続く「苦悩の夜明け」で「♪それでも僕らは恐れる市民を見捨てない」を歌い切ると同時に、手の中の赤旗をパッと離した。彼が手放したのは、何だったんだろうね。美しい理想、美しい思い出。小さな仕草ひとつで、こんな感傷的な想像に観客を誘うなんて、やっぱり反則だ……。